2013年10月8日火曜日

規範と実演としての音楽

 音楽作品はいったいどこにあるのか、という問いについて、少し前に話し合う機会があったので、それから考えたことを、自明な事柄が多いようにも思えるが、少しまとめておこうと思う。

 音楽作品は以下の二つの様態を考えることができる。すなわち、一方は規範として、他方は実演としてである。どちらか一方のみを音楽作品と断言してしまうことには困難が付き纏うであろう。

 これらの関係を簡単に述べるとすれば、後者は前者に依存、あるいは前者に従う形で与えられている。おそらく、規範は実演よりも抽象度の高い音楽作品と言えるだろう。とはいえ、規範においては例えば音楽作品中の個々の音の長さなどは具体的に指示されておらず、程度の差こそあれ、演奏者によって実際に演奏されたそれぞれの音楽は規範的であると言えるかもしれない。そういう意味で実演が規範に従うという強い形ではなく、規範と実演が寄り添っている、互いに浸透しあっているとも考えられる。
 とはいえ、個々の実演が規範に寄り添うその仕方には、抽象性のジャンプが潜んでいる。実演は全て、各演奏者によって為された解釈に基づいて行われる。厳密に言えばその時点で規範からの逸脱が見られるはずである。しかし、それらは解釈を含んだ上でも規範に従った演奏である。その意味で、ある音楽作品の個別的な演奏は全て、その作品の規範へ立ち戻ったうえで理解されている。規範から個々の実演への指示のみならず、ここの実演がその規範を同時に指示している。つまり、「任意の実演的音楽作品に対して、それが規範的音楽作品へと立ち戻ることが出来るならば、それらは同一の音楽作品である」 と主張できるのではないだろうか。

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